● 自分の田んぼを承継するにはどうすればいいのか
● 生前と死後に贈与する際、どのようなちがいがあるのだろうか
● 生前贈与をする際にどのような注意点があるのか
親族が農作業をできなくなった際、土地を何もせずに置いておくのはもったいないです。
せっかくなら誰かに野菜や果物を育てたりと、農地を有効活用してほしいものです。
本記事では農地を生前贈与する際や、された際にメリットや手続き方法について分かりやすく紹介します。
この記事でわかること
● 農地生前贈与のメリットと注意点
● 贈与対象となる農地の選定と評価
農地生前贈与における納税猶予特例の概要
生前贈与とは、生きている間に自分の財産を他の人に譲る行為です。
これは、相続対策や税金対策として広く利用されています。
農地の生前贈与における納税猶予特例について説明します。
納税猶予特例
この特例は、農地を後継者に生前贈与する際に、贈与税の納税を一定期間先延ばしにできる制度です。
贈与した方が亡くなり、相続が発生した際には、猶予されていた贈与税は免除されます。
農地は一般的に評価額が低いとされていますが、広大な農地を所有している場合には高額な贈与税が発生する可能性もあります。
このようなケースでは、納税猶予の特例はとくに有用な制度となるでしょう。
この特例には以下のようなポイントがあります。
1つは猶予される税額です。
生前贈与にかかる贈与税の全額または一部が猶予されます。
2つ目は猶予期間です。
後継者が農業を続けている間は納税が猶予されます。
農家の相続対策の一環として、農業後継者に農地の贈与が検討されます。
しかし、通常の贈与では贈与税が多額となり、大きな負担です。
そこで、農地などを贈与した場合の贈与税の納税猶予の適用を受けると、一定期間、贈与税の納税が猶予されます。
この特例は、農地などの贈与を受けた際に一定の条件を満たす場合、その贈与によって課される贈与税の納税を、贈与者または受贈者が亡くなって相続税の申告をする際の期限まで猶予するのです。
先に贈与された農地を時価で評価し相続税を課税する際に、猶予されていた贈与税は免除されます。
さらに、贈与を受けた人が贈与者より先に亡くなった場合、その時点で猶予されていた贈与税は免除されます。
この規定は、農業後継者の育成や、農地が分割され細分化すると農業経営に支障をきたすのを防ぐために設けられているのです。
ただし、この規定の対象となる土地には、山林や畜舎の敷地は含まれていません。
主な適用要件
納税猶予特例を適用するためには、いくつかの条件を満たす必要があります。
贈与者の条件は2つあり、贈与者が3年以上農業を営んでいる個人である場合と、贈与時に贈与者が60歳以上である場合は納税猶予特例が適用されます。
後継者の条件は4つあり、1つは贈与時に18歳以上である点です。
上記は2022年4月1日以降の贈与に適用されています。
2つ目は後継者が農業を営む意思と能力を有している場合です。
3つ目は贈与後も後継者がその農地で引き続き農業経営をおこなう場合です。
最後に4つ目ですが、農業委員会の証明時において認定農業者の資格を取得している必要があります。
納税猶予特例の対象となる農地には、農地、採草牧草地、準農地が含まれます。
贈与の要件として、農地は全体、採草牧草地や準農地は面積の3分の2以上を一括して贈与するのが条件です。
農地生前贈与のメリットと注意点
農地の生前贈与にはいくつかのメリットがあります。
まず、税負担の軽減です。
生前贈与のメリット
贈与税の納税猶予制度を利用すれば、贈与税の支払いを一時的に猶予できるため、一度に多額の税金を支払う必要がなくなります。
また、相続時精算課税制度を活用すると、贈与税と相続税を一体として計算できるため、相続時の税負贈与者が亡くなった場合、贈与された農地は相続と見なされ、相続税が課税されます。
相続税の計算ベースは「農業投資価格」と呼ばれる価格です。
農業投資価格は、1ヘクタールあたり200万円から900万円の範囲内で設定されており、基礎控除として3000万円が適用されるため、相続税を納める例はほとんどなくなるでしょう。
この制度を活用すると、後継者が相続税の負担を軽減し、農地の引き継ぎが可能です。
さらに、生前贈与は財産の円滑な移転を助けます。
生前に贈与をおこなえば、財産の分割や利用方法を事前に家族で話し合えるため、相続時のトラブルを避けられるのです。
すべての相続案件で必ずしも争いが発生するわけではありませんが、遺産分割における少しの解釈の相違でも、親族同士の関係に亀裂が生じる可能性があります。
そのため、相続争いのリスクを最小限にするのは、生前贈与の大きなメリットの一つです。
生前に贈与をおこなうと、贈与者の意向を明確にし、家族間のトラブルを未然に防げます。
後継者が早期に農地を取得すると、土壌の管理や作物の選定、収穫のタイミングなど、実際の農作業を通じて学べます。
また、市場のニーズや気候変動に対応するための柔軟な戦略を立てる能力も養えるのも魅力です。
これにより、後継者は経験を積み重ねながら、効果的な経営手法を身につけられます。
長期的な農業経営計画を立てやすくなる点も大きな利点です。
これにより、次世代の農業経営者として必要なスキルや知識を実践的に学べます。
生前贈与の注意点
しかし、農地の生前贈与には注意点も多く存在します。
まず、手続きの複雑さです。
農地法による許可取得や税務署への申告、担保の提供など、多くの手続きをする必要があり、これには時間と費用がかかります。
納税猶予を受けるためには、贈与後も継続して農業を営むのが重要です。
また、猶予期間中に3年ごとに特例を継続する旨を記載した継続届出書を提出し続ける義務があり、怠ると猶予が取り消されるリスクがあります。
さらに、農地を複数の相続人に分割して贈与する場合、農地の分割が適切におこなわれないと経営効率が低下する可能性があります。
農地の面積や利用方法には十分な計画が必要です。
贈与者の意向も重要な要素です。
生前贈与は贈与者の生活設計にも影響するため、贈与者が引退後も安定した生活を送れるように、財産分配は慎重に検討する必要があります。
最後に、農地法や税法の規定を遵守しなければなりません。
これに違反すると罰則を受ける可能性があるため、専門家の助言を受けるのが重要です。
具体的な手続きや計画は、税理士や行政書士などの専門家に相談するのをおすすめします。
農地生前贈与の手続きと必要書類
農地の生前贈与における納税猶予特例を利用するためには、まず贈与契約書を作成し、贈与後の一定期間内に必要な届出をおこなう必要があります。
また、農地の所有権を後継者の名義に変更する登記手続きも必須です。
さらに、贈与税の申告期限内に、特例を受ける旨を記載した贈与税の申告書を必要書類とともに所轄税務署長に提出しなければなりません。
納税猶予期間中は、3年ごとに特例を継続する旨を記載した「継続届出書」を提出し続ける必要があります。
期限までに「継続届出書」を提出しない場合、その提出期限の翌日から2か月後に納税猶予が打ち切られ、猶予された贈与税と利子税を納付しなければなりません。
贈与対象となる農地の選定と評価
農地を贈与対象とする際の選定と評価には、いくつかの重要なステップがあります。
日本の国税庁によると、農地は以下の4種類に区分され、それぞれ異なる方法で評価されます。
まず1つ目が純農地についてです。
これは、農地法により宅地への転用が制限されている農地です。
純農地および中間農地の価額は、倍率方式によって評価されます。
倍率方式とは、その農地の固定資産税評価額に国税局長が定める一定の倍率を乗じて評価する方法です。
2つ目ですが、中間農地も同様に倍率方式によって評価されます。
次に、3つ目が市街地周辺農地についてです。
この農地の価額は、市街地農地であるとした場合の価額の80パーセントに相当する金額によって評価されます。
つまり、市街地周辺農地は市街地農地と比べてやや低い評価になるのが現状です。
最後に4つ目の市街地農地の評価方法について説明します。
市街地農地の価額は、宅地比準方式または倍率方式により評価されます。
宅地比準方式とは、その農地が宅地であるとした場合の1平方メートルあたりの価額から、その農地を宅地に転用する場合に通常必要と認められる造成費に相当する金額を控除し、その農地の地積を乗じて計算した金額により評価する方法です。
この評価方法により、市街地農地は宅地に転用する際のコストを考慮した現実的な価額が算出されます。
この算式を具体的に示すと、次のようになります。
市街地農地の評価額は、「その農地が宅地であるとした場合の1平方メートルあたりの価額」から「1平方メートルあたりの造成費」を差し引き、これに地積を乗じて計算されるのが特徴です。
この「その農地が宅地であるとした場合の1平方メートルあたりの価額」は、路線価方式により評価する地域ではその路線価、倍率地域では評価対象農地にもっとも近いです。
道路からの位置や形状が類似する宅地の評価額をもとに計算されます。
さらに、その農地が宅地であると仮定した場合に財産評価基本通達20-2の定めの適用対象となる場合は、その通達の定めを適用して計算しましょう。
「1平方メートルあたりの造成費の金額」は、整地、土盛り、土止めにかかる費用が同一と認められる地域ごとに国税局長が定めています。
この宅地造成費の金額は、国税庁のホームページで閲覧が可能です。
これらの評価方法を用いて、農地を贈与する際には適正な価額を算出し、その価額に基づいて適切な税務処理をおこなうのが求められます。
まとめ
後継者に農業経営を引き継がせる際には、生前一括贈与による贈与税の納税猶予の特例を利用するのがおすすめです。
したがって、農地の生前贈与をおこなう場合には、贈与税の納税猶予の特例に詳しい専門家に相談するのが重要です。
専門家の助言を受けると、手続きの煩雑さを軽減し、適用要件を確実に満たせます。