● 生産緑地とはどのような土地なのか
● 生産緑地を所有権移転する際に条件や制限事項はあるのか
● 生産緑地の所有権移転に関する手続きの流れを知りたい
親が亡くなると、相続により不動産や預貯金、有価証券などの財産を引き継ぐのが一般的です。
ところで、生産緑地に指定されている土地を相続するときには、通常の土地とは異なる判断や手続きが必要になるのをご存じでしょうか。
この記事では、相続にあたって生産緑地を引き継ぐうえで必要な手続きや注意点について説明するので参考にしてください。
この記事でわかること
● 生産緑地を所有権移転する際の条件と制限事項
● 生産緑地の所有権移転を手続きするときの具体的な流れと注意点
生産緑地とは
土地は、都市計画法に基づき都市計画区域と都市計画区域外とに分かれており、都市計画区域は市街化区域と市街化調整区域のほか非線引き区域に区分されます。
このうち市街化区域は優先的に市街化を進めていく地域であり、すでに市街地が形成されている地域や10年以内に市街地の形成が予定されているエリアになります。
市街化区域の土地は農地や緑地などを含んでおり、宅地とは限りません。
生産緑地とは、都市計画法における生産緑地地区として指定されている市街化区域内の農地を指します。
生産緑地の指定を受けると固定資産税などの税金が軽減される一方で、建物の建築や売却などが規制されるほか、一定の期間において農業を経営する必要があります。
ただし、自ら農業を経営しなくても、一定の要件を満たすときには土地の貸付けによって農地を管理しているとみなされ税の優遇措置に関する継続適用が可能です。
なお、固定資産税の軽減によって減額される金額は大きく、相続を受けるうえで重要なポイントになります。
固定資産税は固定資産税評価額によって算出されるものであり、宅地と農地における評価額の差は10倍近くになるのが一般的です。
市街化区域内に位置する一般農地の固定資産税評価額は宅地並みになりますが、生産緑地の指定を受けると農地での評価になり、固定資産税額は10分の1程度に軽減されます。
三大都市圏の特定市街化区域農地においては宅地並み評価を受けるほか宅地並み課税が適用され、生産緑地の指定による固定資産税額の差は100分の1近くになるでしょう。
近隣の宅地に比べて固定資産税の負担が少なくて済む点は、生産緑地の指定を受けている農地の大きなメリットです。
さらに、相続税についても納税猶予制度を適用できるようになっています。
この制度は、農業投資価格を超える部分に係る課税価格に対する納税猶予とともに、相続人が農業経営を継続したときに相続税の納税が免除されるものです。
生産緑地の所有権移転のための条件と制限事項
親が亡くなって財産を引き継ぐときに不動産が含まれていると、何かと面倒な手続きが発生する傾向があります。
土地を相続するときには都市計画法や建築基準法などの法律によって利用が制限されている可能性があり、地域指定の状況などについて確認するのをおすすめします。
ここでは、生産緑地における所有権移転の条件や土地の利用制限などについて説明するので、お役立てください。
所有権移転のための条件
生産緑地の所有権を移転するケースとしては、売買と相続の2つの方法があります。
相続は比較的取扱いやすいのに対し、売却にあたっては指定を解除する必要があり、所有者が希望しても簡単には認められません。
指定を解除したい所有者は、市区町村に対して生産緑地の買い取りを申し出るのが手続きのスタートになります。
ただし、買い取りの申し出ができるのは一定の条件が生じたケースに限られている点に注意が必要です。
条件の1つは指定を受けた日からの期間であり、指定を受けてから30年を経過した段階で市区町村に対する買い取りの申し出が可能になります。
また、主たる農業従事者が亡くなったときのほか、重たい障害を負ったケースにおいても買い取りの申し出が認められています。
買い取りを申し出るときは、生産緑地が所在する市区町村の農業委員会において手続きしなければなりません。
買い取りの申し出を受けた市区町村は1ヵ月以内に買い取りの有無を判断し、買い取らないときには他の農業従事希望者に対し該当地の購入に向けて斡旋します。
斡旋の期間は買い取りの申し出から3ヵ月とされており、斡旋が成立しないときは生産緑地地区の指定解除について手続きを進められるようになります。
指定が解除になると売却できますが、ここまでのハードルが高く、解除になったからといって買い手をみつけられるとは限らない点にも注意してください。
所有権移転する際の制限事項
生産緑地の指定を受けている土地を相続によって取得すると、農業を経営する必要があるとともに、継続して農業を営めるよう設備などを維持管理する義務を負います。
義務を負う期間は生産緑地の指定を受けた日から30年間とされているほか、所有者が亡くなるまでです。
この間、農地として維持管理されていないと判断されたときには税の優遇措置が打ち切られます。
また、建物の建築や土地の造成工事などについても規制されており、実施する際は市区町村長からの許可が必要です。
ただし、許可を求めても、農業を営むうえで必要な施設のほか農業者の収益性を高めて安定的な営農継続に貢献する施設などでなければ認められません。
営農継続に貢献する施設としては、農産物を原材料とする製造加工施設や製造加工品の販売施設、生産緑地で生産した農産物などを主材料とするレストランがあげられます。
したがって、実態としては継続して農業を営むよう制限されている点に注意しましょう。
移転手続きの具体的な流れ
親の死亡などにより生産緑地に指定されている農地を相続するときは、いくつかの手続きをおこなう必要があります。
ここでは、相続において所有権を移転するときの具体的な流れについて説明します。
相続にともなう所有権移転登記
不動産を相続する際には不動産登記の手続きが必要であり、生産緑地においても同様です。
所有権移転登記の手続きは、不動産の所在地を所管する法務局に対して登記申請書を提出するものです。
登記申請書には、被相続人の戸籍謄本のほか、すべての相続人の戸籍謄本と住民票、固定資産税評価証明書、遺言書又は遺産分割協議書などの添付が求められます。
また、固定資産課税台帳上の価格に対し1,000分の4の金額を登録免許税として納付しなければなりません。
相続税に関する納税猶予制度を利用する際には登記事項証明書の添付が必要になり、早めに手続きするのが得策です。
なお、所有者が申請しても構いませんが、手続きが難しいときには司法書士に依頼するとよいでしょう。
農業委員会に対する届出
近年、所有者が不明になる不動産が増加していますが、農地についても同様の傾向がみられます。
所有者が不明な農地が発生すると、農地の集約・効率化のほか公共施設などの設置、災害復旧工事の実施など様々な面で支障が生じかねません。
問題が発生しないよう、農地を相続により所有権移転するときには、農地法によって農業委員会に対して相続の事実を届け出るよう義務付けられています。
届出先は、当該生産緑地が所在する市区町村の農業委員会であり、おおむね10ヵ月以内に届け出なければなりません。
なお、届出を怠たると10万円以下の過料が科せられる可能性があり、注意しましょう。
農業を継続しないときの手続き
農業を継続しないときには、生産緑地が所在する市区町村の農業委員会へ依頼したうえで、市区町村に対して買取り申出する必要があります。
申し出から1ヵ月以内に市区町村が買取りに応じないときには他の農業従事希望者に対する斡旋がおこなわれますが、斡旋が不調に終わるケースは少なくありません。
申出から3ヵ月が経過するまでに斡旋による売買が成立しないときには、生産緑地法に基づく行為の制限が解除されます。
制限の解除にともない、農業委員会に対して農地転用を届け出て受理されると売買や開発がおこなえるようになります。
一方で、固定資産税などの軽減措置が対象外となる点に注意しましょう。
所有権移転手続きの注意点
ここでは、相続によって所有権を移転するうえで注意しなければならない点について説明します。
相続税の納税猶予には手続きが必要
生産緑地の相続にあたっては相続税に関する納税猶予制度があり、適用を受けるよう取り組むのが得策です。
相続税の申告期限は相続の開始を知った日の翌日を起点日として10ヵ月以内とされており、被相続人の住所地を所轄する税務署に対して申告書を提出しましょう。
この際に、納税猶予税額と利子税の額に見合う担保を提供しなければなりません。
また、制度の適用にあたって、相続税の申告書に相続税の納税猶予に係る適格者証明書のほか、担保提供書と担保関係書類などを添付する必要があります。
適格者証明書は、農業委員会から交付を受けてください。
なお、納税猶予期間中においては、相続税の申告期限から3年ごとに納税猶予の継続届出書の提出が必要とされています。
納税猶予の継続届出書を期限までに提出しないときには、提出期限の翌日から2ヵ月を経過すると納税猶予の期限が確定してしまいます。
納税猶予が期限確定すると猶予されていた税額について利子税も含めて支払う必要があり、期限内に届出るよう注意しましょう。
指定解除にともない所有権移転の登録免許税が大きく増額
生産緑地を相続する際の所有権移転に関する不動産登記をおこなうときには、法務局に対し登録免許税を納める必要があります。
登録免許税は、固定資産税評価証明書を基に算出されるものです。
登記申請する際の固定資産税評価証明書は生産緑地の指定を受けている農地としての評価になっており、一般農地のように宅地並みの評価額ではありません。
農地としての評価額で登録免許税を算出すると少額になりますが、生産緑地の指定を解除した土地に対しては宅地並みの評価額が適用されます。
したがって、登録免許税は10倍ほどに膨れ上がり、三大都市圏の特定市街化区域農地においては100倍ほどが必要になるでしょう。
後になってから脱税などにより責められないよう法務局に対して事情を説明したうえで必要な手続きの指示を受け、求められた金額を納めてください。
まとめ
生産緑地とは市街化区域内の農地であり、指定を受けている土地については利用方法や売買に関して制限を受けています。
相続する財産のなかに土地が含まれているときには、生産緑地など法律や規則による制限を受けていないか確認するのが得策です。
生産緑地を農地として利用する見込みがない方が相続を受ける際には、市区町村に買い取りを申し出ると処理してもらえるでしょう。
ただし、他の農業従事予定者への斡旋が成立しないときには固定資産税などの負担が大きくなる可能性が高く、買い取りの申し出は慎重に判断するようにしましょう。







