● 農業を続けられないけれど、耕作していない田畑をどうしたらよいのか?
● 農地を放置したら何か罰則があるのだろうか?
● 相続した農地の使い道がなくて困っている
農業に従事する人は減少傾向にあり、放置したままになっている農地は年々増加しています。
高齢化や経済的な事情で農業を続けられないなど、土地の相続はしたものの家業までは継げないケースもあるでしょう。
農地を放置したままの状態が続くとどうなるのか、罰則を受けるケースや有効な活用方法を解説します。
この記事でわかること
● 農地を放置したときに科せられる罰則
● 放置せずに農地を活用する方法
農地を放置するとどうなる?
日本の食料自給率の低下を防ぐために、農地の売買には法律で規制が設けられています。
農業以外の目的で使用する場合にも条件があり、届出や申請をしたうえでの許可が必要です。
用途が限られているため、活用できずに放置したままになっている土地も多いのではないしょうか。
使っていない農地をそのままにしておくと、どのようなトラブルが発生するのかを解説します。
雑草や害虫で周辺に悪影響を及ぼす
広範囲に除草剤を散布したり、生い茂った草を刈ったりするのは大変な作業です。
とはいえ、除草せずに放っておくと短期間で雑草が生い茂り、雑草をすみかとして害虫が発生します。
植物を食い荒らすガの幼虫やアブラムシなどの昆虫が大量に発生すると、周辺の田畑まで被害が広がるでしょう。
手入れされていない雑草が、植物に有害な細菌やウイルスの温床となり、農作物だけでなく庭木などの一般家庭の植物にまで病気を伝染させるおそれもあります。
管理されていない荒れた土地が悪影響を及ぼすのは、植物だけではありません。
荒地に生息するチャドクガや蚊・アブ・マダニなどは、毒を持っていたり感染症を引き起こしたりと人体に害を及ぼす虫です。
放置した農地が環境に及ぼす悪影響により周辺の住民との関係が悪化して、トラブルに発展するケースもあるでしょう。
苦情が寄せられるだけではなく、損害賠償請求されるおそれもあります。
固定資産税を払い続けなくてはならない
使用していない土地や、管理に費用がかかり損をする土地であっても、固定資産税を支払う義務があります。
固定資産税は一度払えば済むものではなく、土地を所有し続ける限り毎年発生する税金です。
農地を活用していれば収益を得られ、税金の支払いにあてられます。
売却や活用をせず、ただ土地を保有したままにしていると、コストだけがかかり続けます。
農地は宅地よりも固定資産税が安くなる優遇措置を受けられますが、放置状態が続く遊休農地は対象外です。
優遇措置を受けられない場合は、農地よりも高い固定資産税を払い続けなくてはなりません。
ごみを不法投棄される
管理が行き届かず、雑草が生い茂った土地は、ごみを不法投棄されやすい状態にあります。
山間部などの人目につかない場所は、特に被害に遭いやすいでしょう。
捨てられたごみから悪臭が発生したり、虫がわいたりして、さらに状態が悪化するケースもあります。
有害物質に土壌が汚染されると、農地として再生するのが難しくなる点には注意が必要です。
放置期間が長いほど土地は荒れて、元の状態に戻す費用が余計にかかります。
売却するにしてもごみを処分する必要があり、最終的にマイナスになる可能性もある点から、処分や再利用に踏み切れません。
その結果、さらに放置が続き、ますます土地が荒れる悪循環に陥ってしまいます。
農地放置時の罰則と違反事例の紹介
農地を放置しただけで適用される罰則はありませんが、命令を無視したり手続きを怠ったりすると、罰則が科せられる可能性があるため注意が必要です。
どのような罰則が設けられているのか、違反となる行為の例とあわせて紹介します。
措置命令に応じないと30万以下の罰金を命じられる
市町村からの措置命令に違反した場合は、30万円以下の罰金に処すと農地法で定められています。
農地を放置する行為が直接の原因にはなりませんが、管理が不十分なために土地が荒れて、周辺の農家の営業に差し障りがある場合は問題です。
害虫や雑草・土石の堆積など、悪影響をもたらしている支障の除去や発生の防止を市町村から命じられます。
罰則が適用されるのは、この措置命令に従わず何の対策もとらなかった場合です。
30万円以下の罰金が科されるうえに、強制的に代執行がおこなわれる可能性があります。
代執行がおこなわれた場合は、その際にかかる費用も、問題のある農地の所有者が負担しなくてはなりません。
措置命令には期限が設けられており、命令を受けた場合は早めの対策が必要です。
相続登記を怠ると10万円以下の過料の対象になる
農地を相続した場合に、何の手続きもせず放置したままにしていると、10万円以下の過料の対象になります。
法改正により令和6年4月から相続登記が義務化され、申請をしなかった場合の罰則が設けられたためです。
法改正以前の相続に関しても義務化の対象となるため、期限内に申請をおこなう必要があります。
相続登記の期限は、不動産の相続を知ったときから3年以内です。
期限を過ぎた場合に、すぐ過料が科されるわけではなく、事前に催告書が送られてきます。
催告書が届いた時点で申請手続きをすれば、過料が科される心配はありません。
農地を相続して使い道に悩んでいる場合でも、相続登記の申請は早めに済ませておきましょう。
税制改正による耕作放棄地の課税強化
固定資産税が課税される際に、農地には優遇措置がとられています。
一般の土地よりも税金が安くなるため、放置したままの所有者が多い状況を改善するために、平成28年に税制が改正されました。
農地として活用していない土地は、優遇措置の対象から外れて、固定資産税が高くなる可能性があります。
課税強化の対象になる農地
課税強化の対象になるのは、農業振興地域内にあり、耕作放棄地のなかでも遊休農地と判断されて勧告を受けた土地です。
将来にわたって農業での利用を確保すべき土地として、市町村から指定されたエリアを農業振興地域といいます。
農業振興地域内にあるか否かは、市町村の農業振興課などの部署で確認できます。
遊休農地の認定のために実施されているのは、農業委員会が毎年1回、農地の利用状況を調査する農地パトロールです。
1年以上耕作されておらず今後も見込みのない土地や、周辺と比較して著しく利用状況が劣っている土地は遊休農地と判断されます。
農地中間管理機構への貸し付けの意思表明や耕作の再開をおこなわず、放置したままの遊休農地が課税強化の対象です。
農地中間管理機構とは、農地バンクとも呼ばれる組織で、農地の賃貸をおこないやすくする役割があります。
課税強化される理由
土地の価値は、そこから得られる収益により判断されるのが一般的です。
農地は一般の土地と比べて、面積の割に収益が低くなる傾向にあるため、税制上の優遇措置がとられています。
通常の農地の固定資産税の評価額は、売買価格に限界収益修正率の0.55を乗じた金額です。
この優遇措置により、農地の固定資産税は一般の土地より安くなっています。
固定資産税が高くなる理由は、平成28年の税制改正により、遊休農地の勧告を受けた耕作放棄地には限界収益修正率を乗じないと定められたためです。
限界収益修正率を乗じないと、結果的に通常農地の約1.8倍の固定資産税がかかります。
税制が改正された背景には、税金が安いために放置したままでいる所有者から、やる気のある農家に農地を託したいとの思惑もあります。
農地放置を避けるための有効活用方法
農地を放置したままにしておくとさまざまな問題が発生し、所有しているだけで費用がかかるため、何らかの対策が必要です。
放置を避けるためにはどうすればよいのか、農地の有効な活用方法を解説します。
自治体の補助金を利用して農地を再生する
農地の活用方法は大きく分けて、農地のまま活用するか、農地以外に転用して活用するかの2とおりです。
農地を転用するには法律の規制があるため、希望どおりの活用ができないケースがあります。
農地転用できない場合に有効な活用方法は、自治体の補助金を利用して農地として再生する方法です。
都道府県や市町村では、さまざまな支援事業がおこなわれており、補助金制度が設けられています。
自治体によって差はありますが、放置状態の農地を再生したり、農地中間管理機構へ貸し付けたりする取り組みに補助金が出る内容であるのが一般的です。
農地がある自治体の窓口やホームページで、補助金を受けられる事業がおこなわれていないか確認してみましょう。
農地として貸し出す
自分で農業を営む予定がない場合でも、農地バンクへの登録や市民農園の開設で、農地としての活用が可能です。
農地を第三者に貸し出せば、賃料として収入が見込めるでしょう。
農地バンクとは、農地中間管理機構の別名で、農地の貸し借りや売買の仲介をおこなう組織です。
市町村が窓口となってくれるため、農地の所有者が相手を探す必要がありません。
市民農園の開設は、自家製の野菜や花を育てたい人々に農地を貸し出す方法です。
市民農園を開設するには、市町村との貸付協定が必要な場合があります。
農地転用して農業以外で収益を得る
農地法に定められた条件をクリアする必要はありますが、農地以外の地目に転用できれば、活用の幅は広がります。
農地転用後にマンションやアパートなどの賃貸物件や駐車場を経営すれば、収益物件として活用できるでしょう。
立地がよくない場合は、資材置き場や太陽光発電としても活用できます。
また、農地は自然が豊かで静かな環境にある場合が多いため、高齢者向けの施設に適している場合もあります。
有効な活用方法を選ぶには、農地がある場所の特徴とニーズを把握するのがポイントです。
許可を得て売却する
農地の管理に手間や時間をかけられない場合は、売却も有効な方法の1つです。
ただし、農地を売却する際には、農業委員会や都道府県知事の許可を得なくてはなりません。
無許可で売却した場合には、契約が無効になるだけではなく、罰則が適用されます。
3年以下の懲役または300万円以下の罰金に処される可能性があるため、許可を得てから売却しましょう。
農地のまま売却するときには、農業委員会の許可を得られれば、都道府県知事の許可までは必要ありません。
転用目的で売買するときには、都道府県知事の許可が必要です。
農地の売却には一般の土地とは異なる手続きが必要になるため、実績があり信頼できる不動産会社に依頼しましょう。
まとめ
農地の放置で発生するトラブルの原因は、雑草や害虫の発生・ごみの不法投棄などで周囲に悪影響を及ぼすおそれがある点です。
管理や手続きが不十分だと、罰則を科せられたり税金が高くなったりするケースがあります。
農地を放置しないために、補助金の利用や第三者への貸し出し、農地転用や売却などの方法を検討しましょう。