● 農地を売却すると、どのくらい税金がかかるのだろうか?
● できるだけ払う税金を少なくするには、どうしたらよいのか?
● 農地を売ったあとの確定申告の方法がわからない
ここでは所有する農地を売りたいと検討している方へ、売却時にどのような税金が発生するのかを、注意点とあわせて解説します。
特別控除を利用するなどして税金を減らす方法や、売ったあとに必要な確定申告の方法も解説するので、税金対策の参考にしてください。
この記事でわかること
● 農地を売ったときの節税対策
● 確定申告の方法や必要書類
農地売却時に発生する税金
農地を売ったときに発生する税金には、大きく分けて2種類あります。
利益が出た場合に所得にかけられる税金と、売買の手続きの際に発生する税金です。
それぞれの税金の内容と、どのくらいの金額が課税されるのかを解説します。
譲渡所得税
譲渡所得税とは、不動産を譲渡したときに、得た利益に対して課される税金です。
農地を売った金額から、農地を得るためにかかった費用や売却にかかった経費などを差し引いた金額を、所得金額として計算します。
先祖代々引き継がれた土地では、購入した金額や手数料がわからない場合もあるでしょう。
農地の取得費が不明なときは、売った金額の5%に相当する金額を取得費として計上できます。
すべての所得に対していくら税金がかかるのかは、総合課税と分離課税に分けて計算します。
総合課税とは、給与所得や雑所得などを合算して税額を出す方法です。
分離課税では対象となる種類の所得に対して、それぞれの税率をかけて個別に計算します。
一時的に高額な所得があった場合、給与所得などと合算すると重い税金がかかるためです。
農地を売って得た所得は分離課税の対象であり、譲渡所得金額に税率をかけて計算します。
税率は所有期間によって異なり、5年以内の場合は30%、5年を超える場合は15%です。
住民税
譲渡所得税が国に支払う税金であるのに対して、住民税は1月1日に住所がある自治体に支払う税金です。
都道府県と市町村に納める税金を、個人住民税として市町村がまとめて徴収します。
譲渡所得税と同じく分離課税で計算されますが、異なるのは譲渡所得金額にかける税率です。
所有期間に応じて税率に差が設けられており、5年以内に売却した場合は9%、5年を経過してから売却した場合は5%で課税金額を計算します。
復興特別所得税
復興特別所得税は、平成23年の東日本大震災の復興施策の財源を確保するために、平成25年から令和19年まで徴収される税金です。
長期譲渡所得の15%・短期譲渡所得の30%に、それぞれ一律2.1%が課税されます。
15%×2.1%=0.315%
30%×2.1%=0.63%
上記の計算により、上乗せされて課税される復興特別所得税は、長期譲渡所得0.315%・短期譲渡所得0.63%です。
印紙税
農地の売買に関する契約書を作成する際に、記載された金額に応じた印紙税が課されます。
印紙税とは、経済的な取引で作成される契約書や領収書などの文書に対して、印紙税法により課される税金です。
課税金額分の収入印紙を購入して、文書に貼り付けて消印を押される形式で納税します。
印紙税は契約書ごとに必要であるため、売主と買主でそれぞれ契約書を作成する場合は、自分の保管用の契約書分を負担するのが一般的です。
記載金額が10万円を超える不動産売買の契約書では、令和9年3月31日まで軽減税率が適用されます。
登録免許税
農地を相続で取得した場合には、相続登記がおこなわれていないと売却はできません。
登録免許税は、不動産登記の手続きをおこなう際に課せられる税金です。
登録免許税の税額は、固定資産税評価額に税率を乗じて計算します。
登録免許税の税率は本則では2%ですが、令和8年3月31日まで軽減税率が適用されるため、1.5%です。
農地売却時の税金に関する注意点
農地を売ったときには決められた期間内に確定申告が必要であり、怠ると税金が増える点には注意が必要です。
条件によって特例が適用されないケースや、極端に価格が安い取引の場合は時価で課税額を計算されるケースもあります。
確定申告を怠ると課される税金が増える
農地を売却したら、翌年の2月16日から3月15日までの期間に、確定申告が必要です。
確定申告を怠ると、無申告加算税として追加の税金を課せられます。
加算される税金は、納めるべき税金に対して50万円までの部分には15%、50万円を超える部分には20%を乗じた金額です。
令和5年の税制改正で、300万円を超える部分に乗じる割合は30%になり、高額無申告に対する加算税が強化されました。
期限までに税金を納めないと滞納した日数に応じて延滞税も加算されるため、確定申告は期限内に忘れずにおこないましょう。
特例が適用されないケースがある
農地法により、農地や採草放牧地の権利を移動する際には制限が設けられています。
農地法第3条の許可を得ていないケースには、特別控除は適用されません。
また、農地利用目的の売却で使える特例では、農用地区域にある農地が対象である点にも注意が必要です。
売却する農地が農用地区域にあるか否かは、農地を管轄する自治体の農業委員会に問い合わせれば確認できます。
農業委員会のあっせんなどが適用条件の場合、委員会を通さずに直接知り合いの農家へ売却すると、対象外になるため注意しましょう。
極端に安い価格で売却した場合は時価で計算される
農地を売買する際に安すぎる価格で取引した場合には、一定の制約が設けられています。
親子間や親族間などの利害関係にある者同士の売買で、節税などを目的に極端に安い金額を設定するケースがあるためです。
時価の2分の1未満の価格で取引した場合は、時価で売ったとみなされて、時価分の税金が課せられます。
また、差額分が売主からの贈与とみなされるため、買主に贈与税が発生する点にも注意が必要です。
農地売却時の節税対策
特別控除を利用したり、売却時期を調整したりすれば、税金を少なくできる場合があります。
利用できる特別控除の金額とその適用条件、節税になる売却のタイミングを解説します。
控除を利用する
800万円の特別控除は、農地の売却で利用されるケースが多い控除です。
農用地区域内の農地を、自治体の農用地利用集積計画や農業委員会のあっせんによって売却した場合には、800万円の特別控除が適用されます。
農用地区域の農地を買入協議によって農地中間管理機構に譲渡した場合には、1,500万円の特別控除を利用できます。
農地中間管理機構とは、農地バンクとの名称もあり、農地の貸し借りや売買の仲介をおこなう組織です。
農業委員会に売却を申し出た際に、エリアの将来性をみて中間管理機構の買入が必要と判断されると、中間管理機構と買入協議をおこなうように指示されます。
1,500万の特別控除が適用されるためには、この買入協議を経たうえでの売却が必要です。
2,000万円の特別控除は、地域農業経営基盤強化促進計画の特例で、農用地区域の農地を中間管理機構に売却した場合に適用されます。
ただし、特例農用地利用規定が定められている地域の農地が対象であるため、利用できるケースは限られます。
5,000万円の特別控除は、農地が公共事業のために土地収用法などで買い取られる場合に適用できる控除です。
国が強制的に農地を買い取るため控除額は高額で設定されていますが、国からの要請がなければ利用できません。
いずれの場合も、特別控除を受けるためには確定申告が必要です。
5年以上保有してから売る
譲渡所得税と住民税は、保有期間によって税率が異なります。
譲渡所得税の税率は、5年以内の売却では30%であり、5年を経過してから売却すると15%です。
住民税も5年以内の売却では9%のところが、5年を経過してから売却すると5%になり、譲渡所得金額に乗じる税率が低くなります。
5年以内に売却した場合と比べて、それ以上長期間保有してから売却したほうが、税額を半分程度に抑えられます。
急いで売却する事情がない場合には、取得して5年を過ぎてから売るのが、有効な節税対策といえるでしょう。
保有期間は、売却した日ではなく、売却した年の1月1日時点で判断されます。
農地売却時の確定申告について
農地を売却したときには、確定申告をしなくてはなりません。
不動産の売却では所得をまとめて課税する総合課税ではなく、分離課税が用いられるため、個別に申告が必要です。
農地売却時の確定申告の方法や必要書類、申告する際の注意点を解説します。
確定申告する方法
農地を売却した翌年の2月16日から3月15日までが、確定申告の申告期間です。
原住所を管轄する税務署で、必要書類を用意しておこないます。
申告書に手書きで記入する方法以外に、e-Taxや税務処理ソフトなどを用いてオンラインで入力する方法もあります。
特別控除を利用するケースなど、農地の売却では手続きが複雑になる傾向にあるため、税理士に依頼するのも方法の1つです。
費用はかかりますが、手間と時間を節約できます。
個人事業主の場合は税務処理ソフトを導入すれば、通常の所得と譲渡所得の申告を一緒に実施できるので便利です。
確定申告する際の必要書類
農地売却時の確定申告に必要な書類は、確定申告書の他に、売買契約書の写し・売却にかかった費用の領収書の写し・農地の登記事項を証明する登記簿謄本などです。
分離課税の申告では通常の確定申告書以外に、確定申告書第三表や、譲渡所得の内訳を記載する確定申告書付表兼計算明細書も用意しなくてはなりません。
契約書の写しは、農地を取得したときと売却したときの両方とも必要です。
申告内容を証明する書類の写しや、本人確認に必要な書類も用意しましょう。
特別控除を適用するときに書類が不足していると、適用を受けられないケースがあります。
特別控除の対象である場合には、前もって最寄りの税務署に必要書類の確認をしたほうがよいでしょう。
預金口座がわかる書類や源泉徴収票など、通常の確定申告に必要な書類も忘れないようにしてください。
農地売却時の確定申告の注意点
売却で得た利益よりも取得費や経費のほうが高額で、所得がプラスにならない場合には、農地売却に関して確定申告をしなくても問題はありません。
ただし、譲渡所得がマイナスであっても、確定申告をすれば税金の控除が受けられる場合もあります。
特別控除を適用した結果、税金が発生しない場合であっても、確定申告が必要な点に注意しましょう。
特別控除が適用されるには、確定申告する必要があるためです。
確定申告が必要なケースで期限内に申告しなかった場合は、無申告加算税が課されます。
納税期間を過ぎると延滞した日数に応じて、延滞税も課されるため注意が必要です。
まとめ
農地の売却時には、譲渡所得税や住民税・復興特別所得税など、さまざまな税金がかかります。
農地の売買では高額な取引になるケースが多く、譲渡所得に対して課税されるため、特別控除の適用や売却時期の調整などの節税対策が必要です。
農地を売却した翌年には確定申告をしなくてはなりません。
期間内に申告・納税をしない場合は、無申告加算税や延滞税を課されたり控除が適用されなかったりするため、忘れずに手続きしましょう。