● 使っていない農地を、宅地や駐車場にして有効活用したい
● 農地を相続したけれど、農業は継がない場合どうしたらいいのか?
● 農地を他の目的で使うには、どのような手続きが必要なのか?
この記事では、農地転用を検討中の方に、転用許可制度の概要と判断基準を解説します。
手続きの流れや、許可を得ずに転用した場合の対応も解説するので、農地を所有していて農業以外で活用できないかと悩んでいる方は参考にしてください。
この記事でわかること
● 農地転用ができるかを判断する基準
● 転用許可を申請するときの手続きの流れ
農地転用許可制度の概要
農地を農業以外の用途で使用する際には、勝手に変更してよいわけではなく、転用許可を得なくてはなりません。
農地転用許可制度の概要として、農地転用の内容と許可を得る方法、許可する権利があるのは誰かを解説します。
農地転用とは
農地転用とは、農地を宅地・店舗・駐車場など、農業以外の目的で使用する行為です。
農地であるかは、登記上の地目ではなく、現況でどのように使われているかで判断されます。
登記上の地目が原野などの農地以外であっても、田畑として使用されていれば農地と判断されるため注意が必要です。
農地の転用は農地法で規制されており、個人の都合で自由にはできません。
農地法とは、食料自給率が低い日本で、食料の安定供給や国内の農業生産力を守るために定められた法律です。
農業の生産力確保の面で農地転用は望ましくないものの、現実的な問題として転用せざるを得ない状況もあるでしょう。
理想と現実をすり合わせるために、農地転用に際しては、農地法による一定の基準が設けられています。
農地転用の許可を得る方法
農地転用の許可を得るには、農地法に定められた方法で許可を得なくてはなりません。
農地転用の許可を得る際は、転用する者が誰かによって、該当する農地法の条文が異なります。
所有者が自らの農地を転用する場合には、農地法第4条の許可が必要です。
企業が農地を買い上げてマンションや商業施設を建てるケースなど、転用して利用するのが目的で農地を買ったり借りたりする場合には、第5条が該当します。
第4条の申請書に記載する申請者は農地所有者のみですが、第5条の申請書には、農地所有者と転用事業者の両方の記載が必要です。
また、農地の所在地が都市計画法でどのような区域に指定されているかによっても、手続きの方法は異なります。
都市化を推進する市街化区域では届出書を提出するだけで済みますが、それ以外の市街化調整区域などでは許可が必要です。
農地転用の許可権者
都道府県知事か、農林水産大臣から指定を受けた市町村の長が農地転用の許可をおこないます。
4ha以下の場合は、市町村の農業委員会を通じて、都道府県知事の許可が必要です。
4haを超える場合には、同様の手続きに加えて、農林水産大臣との協議がおこなわれます。
平成28年4月に農地法が一部改正され、農林水産大臣が指定する市町村にも、都道府県と同じ権限が与えられました。
市街化区域以外では農地転用に許可が必要ですが、国や地方公共団体がおこなう場合や土地収用される場合など、許可を得る必要がないケースもあります。
農地転用許可の基準
転用許可に用いられるのは、立地基準と一般基準の2つの基準です。
立地基準では、優良性や周囲の状況によって農地を5つの区分に分け、区分ごとに許可要件が定められています。
一般基準で判断されるのは、転用後に目的を実現する確実性や、周辺農地へ差し障りが出ないように適切な措置がとられているかなどです。
一般基準よりも、立地基準のほうが重視される傾向にあります。
転用する予定の農地の立地によっては、検討する余地もなく許可を得られない場合があるためです。
立地基準の審査のほうが先におこなわれるため、立地基準を満たしていなければ、一般基準の審査は受けられません。
立地基準で転用許可がおりない土地
立地基準は農地の優良性や、周辺土地の利用状況によって5つの区分に分けられており、区分ごとに許可要件が定められています。
立地基準での5つの区分のうち、原則的に許可がおりないのは、農用地区域内農地・甲種農地・第1種農地の3区分です。
農用地区域内農地
都道府県が指定する農業振興地域のなかで、市町村の農業振興地域整備計画でも農用地区域に指定されたエリアにある農地です。
農地のなかでも特に生産性が高く優良な土地で、長期にわたって農業の振興を図る地域でもあるため、転用許可は原則認められません。
農業用施設や農産物の加工・販売施設などに限り、例外的に許可される場合があります。
甲種農地
市街化調整区域にあり、農業を営むにあたって優れた条件を備えている農地です。
農業公共投資を受けて8年以内の農地や、高性能な農業機械での営農が可能な農地などが指定されています。
この区分の農地も、原則的に転用許可はおりません。
農用地区域内農地と同じく、農業用施設などの指定用途に用いる場合は、例外的に認められる場合があります。
甲種農地では、土地収用事業の認定施設や、農業振興のための公共性の高い施設なども例外的に認められる施設とされています。
第1種農地
おおむね10ha以上の集団農地で、農業公共投資の対象とされている農地や、生産性が高い農地です。
第1種農地も、転用許可がおりないのが原則です。
甲種農地と同様に、土地収用事業の認定施設や農業に関わりのある公共性の高い施設などは例外的に認められる場合があります。
立地基準で転用許可を受けられる土地
立地基準による判断で、転用許可を受けられる可能性があるのは、第2種農地と第3種農地です。
第2種農地は条件によっては許可がおりないケースもありますが、第3種農地は原則的に転用許可を受けられます。
第2種農地
農業公共投資の対象とならない生産性の低い農地や、将来的に市街地として発展する可能性があるエリアの農地です。
農地以外の土地や第3種農地では、目的の建物や設備を作るのが難しい場合に、転用が認められます。
第3種農地で転用できれば第2種農地を転用するよりも農業への影響が少ないため、第3種農地で目的の実現が可能と判断されると許可はおりません。
第3種農地
都市としての機能が整っており、市街化が進んでいる区域にある農地です。
具体的には、300m以内に鉄道の駅や市役所などの公共施設があったり、街区内で宅地の面積が40%を超えていたりする土地などを指します。
第3種農地では、転用許可が認められるのが原則です。
一般基準での判断のポイント
立地基準で転用可能と判断されると、次に一般基準での審査がおこなわれます。
一般基準による判断のポイントは、転用後に事業をおこなう確実性と周辺農地への影響、一時的に転用する場合は原状回復の確実性です。
転用の確実性
資金計画を記載した事業計画書の提出が求められ、過去の実績などからも、資金力や信用があるかの判断がおこなわれます。
事業内容が他の法令に違反していないか、所有権や貸借権などの転用の妨げになる権利を持つ者から同意を得ているかなども、確実性を判断する基準です。
周辺農地への影響
周辺農地に土砂の流出や崩壊などの災害が生じる可能性や、農業用水の排水機能に差し障りがないかなどを確認します。
日当たりや風通しなども含め、周辺農家の営農条件へ悪影響がないかが、判断のポイントです。
一時転用の際は原状回復の確実性
建設工事中の現場事務所や資材置き場など、一時的に農地を他の目的に使用するケースもあるでしょう。
一時転用とは、農地に戻す前提で一定期間に限り、農地を農地以外の土地とする行為です。
期間が終了したときに、農地への原状回復が確実におこなえるかを判断します。
農地転用許可手続きの流れ
農地転用許可手続きは、農地が市街化区域にあるか、それ以外の区域にあるかで異なります。
申請をおこなうのは、農地法第4条では土地所有者などの農地を転用する者、第5条では農地の権利を譲渡する者と譲渡を受けて転用する者です。
いずれの場合も、農地が所在する市町村の農業委員会の窓口で申請します。
市街化区域に農地があるケース
市街化区域に転用する農地がある場合は、許可を得る必要はありません。
農地がある市町村の農業委員会に届出書を提出して、受理されれば転用できます。
申請の締め切り日が毎月設けられており、締め切りを過ぎると書類審査の開始が1ヵ月遅れるため、急ぐ事情がある場合は注意しましょう。
市街化区域外に農地があるケース
都市計画法で市街化を抑制すべき区域と指定されている市街化調整区域や、市街化区域・市街化調整区域のどちらにも区分されていない地域の転用には許可が必要です。
転用許可を得る手続きの流れは、面積によって異なります。
30a以下の土地では、申請を受けた農業委員会は、意見を付けて都道府県知事に申請書を送付します。
申請書を受けた都道府県知事が判断して、申請者へ許可などの通知をするのが基本的な流れです。
30aを超える土地の場合は、都道府県知事に意見付きの申請書を送る前に、都道府県農業委員会ネットワーク機構の意見が聴取されます。
4hを超える面積の土地を転用する際には、上記の手続きに加えて、都道府県知事と農林水産大臣との協議がおこなわれたうえで判断されます。
違反転用とその対応策
農地を転用する際には農業委員会への届出書の提出や、都道府県知事の許可が必要です。
許可を得ずに転用した場合や、申請したとおりに事業をおこなわない場合は、違反転用として指導・命令を受けたり罰則が適用される可能性があります。
違反転用が発覚するケース
違反転用が発覚するきっかけは、農業委員会によるパトロールや、違反に気付いた人からの通報などです。
知らずに転用していた当事者が、違反に気付いて申し出るケースもあります。
違反に気付くタイミングは、農地を相続したときや他の土地を転用しようとしたとき、許認可が必要な事業を始めようとしたときなどです。
相続の手続きを進めるうちに被相続人が無許可で転用していた事実が判明するケースや、申請手続きの際に役所から指摘を受けるケースがあります。
農地転用許可制度の内容を知らずに転用がおこなわれるケースがほとんどですが、悪意でおこなわれるケースがあるのも事実です。
違反転用の対応策
違反転用に気付いたときは、期限を設けて農地へ復元するよう指導がおこなわれます。
農地として原状回復したあとで、正しく農地転用の手続きをすれば、追認許可が認められるケースがほとんどです。
発覚時に建物があった場合は、原状回復にかかる経済的な損失は大きいでしょう。
どこまで原状回復をしなくてはならないのか、原状回復なしで追認許可が得られるかは、役所が判断します。
指導や勧告に従わない場合の対応策は、許可の取り消し処分や原状回復命令です。
この流れとは別に悪質なケースでは刑事告発も検討され、裁判で有罪になると、3年以下の懲役か300万円以下の罰金が課せられます。
まとめ
農地を農業以外の目的で使用する場合には、届出書の提出や都道府県知事の許可が必要です。
農地の生産性や周辺環境に基づく立地基準と、転用後の利用状況を確認する一般基準で、許可ができるかを判断します。
違反転用が発覚すると原状回復費用などの不利益が生じるため、転用する際は正しい手順でおこないましょう。